Nikon   F2 チタン

1    はじめに
   F2が製造されたのは、執筆時点(2024年)から約44年以上前で、正確な資料も少ないことから、以下の文書に誤りがあるかもしれない事をご理解ください。


2    ニコンF2の概要
   ニコンF2とは、ニコン最初の一眼レフであり「重要科学技術史資料(未来技術遺産)」に登録されているニコンFの後継機です。
 1971年9月に発売され、1980年6月生産終了したようです。生産台数は約82万台弱と言われています。

3    ニコンF2チタンの概要
   ニコンF2チタンに同梱されていた書類には次のように記載されていました。


   なお、上記で「縮緬ブラック塗装仕上げ」としている箇所は次のとおりです。これは現在のデジタル一眼レフまで引き継がれています。
   画像は上段がチタン、下段が通常のものです。

   まずは、ペンタカバーです。


   次は、上カバー(巻上げレバー側)です。


   次は、上カバー(巻戻しノブ側)です。


   マウント部エプロンです。


   最後に、底カバー部です。


   ちなみに、裏ぶたは、チタンを使用していますが縮緬塗装はされていません。そのため、外観から通常のものとの違いを判断することは難しいです。

4    ニコンF2チタンの変更点(上記3以外)
   上記3以外に、通常のF2と次の違い、底板のOCキー廻りにビスが3個追加されています。


5    ニコンF2チタンへの歴史
   遠因は、戦場等過酷な振動でネジ等が緩み故障しないようにと、従前から研究されていたようです。
   直接の起源は、1977年に、冒険家の植村直己さんが北極点記録用にニコンに依頼して制作された、所謂「ウエムラスペシャル」のようです。

6    価格
   ネーム有、無共に98,000円。値引きは無く定価販売だったようです。
   通常のF2ブラックアイレベルファインダー付は81,500円でしたので、価格差は16,500円でした。
   参考までに、後継機種であるF3の場合、発売当時のハイアイポイントボディーは149,000円、チタンブラックは199,000円、価格差は50,000円でした。

7    販売形態

⑴    報道特需向け(ノーネーム)
   ニコンの報道機材課プロサービスという部署の方が報道機関等を巡回サービスで訪問した時等に商談をしていたようです。
   購入には購入者自身が作成した書類の他、他の人に作成してもらった書類も差し入れなければならなかったようです。

⑵    一般販売用(ネーム有り)
   1979年初夏頃、2000台限定で受注していました。
   各販売店、数個だけの入荷だったようです。

8    製造

⑴    経緯
   当初は、チタンが硬くプレス型が痛むとの懸念があったそうです。そのため、壊れても良いとしてF2末期に製造されました。プレス型が丈夫だったようで、結局、増産かつネーム入りまで製造したという経緯があったようです。
   一般販売用(ネーム有り)の正面左上に刻印されている筆記体のTitanロゴは、戸祭正和(千葉大意匠工学科)さんのデザインだそうです。


⑵    製造番号、製造数
イ    報道特需向け(ノーネーム)
   当初は1,000台限定生産の予定で1ロット500台だったようです。
   製造番号下三桁500までの第1ロットと製造番号下三桁501からの第2ロットとは6月以上開いていたようです。
   製造番号は、通常のF2とは別の920XXXXとなっています。
   また、通常のF2と同じ番号帯の773XXXXと言う上記ロット以前に製造されたと思われる個体も存在します。上記5記載の所謂「ウエムラスペシャル」の製造番号は、7733398及び7733380です。私が見た773XXXXの個体の製造番号は、いずれも所謂「ウエムラスペシャル」の製造番号より大きな番号でした。
ロ    一般販売用(ネーム有り)
   当初は2000台限定で受注していました。
   製造番号は、T79XXXXとなっています。たまに見かけるT785XXXXは、F2H用の個体です。


⑶    小括
   報道特需向け(ノーネーム)、一般販売用(ネーム有り)共に、その後増産され、一説には各5,000台、合計10,000台製造されたと言われているようです。これは、製造番号からも推定されます。私が見た中で一番大きな製造番号は、報道特需向け(ノーネーム)で9204XXX、一般販売用(ネーム有り)でT79XXXですので、まんざらウソでもないように思われます。

9    個体差

⑴    概括
   一般販売用(ネーム有り)は、生産が落ち着いてから製造されたためか、個体差の話は聞きません。
   報道特需向け(ノーネーム)は、製造当初では徐々に改良されていったようで、上記3記載のチタン材を使用しているべき箇所にチタンが使われていない個体が散見されるようです。しかしながら、チタンが使われていない箇所にもチタンと同じ独特の塗装はされていたようです。とはいえ、第3ロット(製造番号下四桁1001)以降では、個体差は見られないようです。

⑵    裏蓋
   個体差の中でも一番有名なのは裏蓋ではないでしょうか。一般的には、最初の400台程度の個体の裏蓋がチタンではなく鉄製のものが使われたと言われているようです。400台の内訳は、ネット情報ですが、先に述べた773XXXXで100台、9200XXXで300台だそうです。しかし、その後メーカーで有償か無償かはわかりませんが、鋼鉄製裏蓋をチタン製裏蓋に交換する対応をしていたようです。そのため、どれだけの鋼製裏蓋が現存しているかはわかりません。手元の個体では、製造番号番号下三桁100番代後半までは鋼鉄製裏蓋を確認しています。
   裏蓋の材質は、見ただけではわかりません。塗装が剥げている部分があれば、その下地の色でわかります。通常のもので有れば十円玉のような赤っぽい色になりますが、チタンは白っぽい色になります。
   画像は、上段が通常のもの、下段がチタンです。

   鋼鉄の場合は通常のものに近い色ですが、もっと錆びた感じになります。
   画像は、上段がチタン、下段が鋼鉄製です。


   一番確実な見分け方は重さです。手元にある個体を測ってみると、
      通常          57g
      チタン  78g
      鋼鉄       108g
でした。鋼鉄製の裏蓋は、裏蓋の開閉をするだけで、重量感があるのでなんとなく違いがわかります。    また、鋼鉄製の裏蓋は、磁石がつきます。


⑶    ファインダー右側の凹み
   ファインダー右側が若干凹んでいます。これはF2チタン固有で、一般のF2には見られません。しかし、殆どのF2チタンは画像右側の画像のように凹みが有ります。
   いつから凹みが有る仕様に変更されたかははっきりしません。検証しようとしても、ファインダーはユーザーでも簡単に交換が可能ですし、チタンファインダー単体でも販売されていましたし、また、製造後45年が経過しているため修理の際に部品交換されている可能性があるので、今のボディーに付いているファインダーがオリジナルのものかどうかがわからないためです。
   また、画像左下のように微妙に凹んでいる個体も確認されています。このため、一度に仕様変更したのではなく、製造過程で何らかの理由で徐々に凹んでしまったとも考えられます。    さらに、凹みの位置も画像右上と右下のように異なる個体も把握されています。このあたりの変遷や事情には非常に興味がありますが、真相はわかりません。
   以上をまとめると、次のように4タイプに分けられます。
      ①    凹み無し(画像右上)
      ②    過渡期(画像右下)
      ③    凹み有り(後ろ側)(画像左上)
      ④    凹み有り(中央)(画像左下)
   とはいえ、私の手元の個体や知人の話を総合すると、圧倒的大多数は③か④の凹み有りの個体のようです。そして、ノーネームの初期(第二ロットの初め)頃までは①の凹み無し、その後とネーム有りの初期は②の過渡期のように思われます。


⑷    裏蓋開閉レバー
   これは、F2チタン固有の個体差ではなく、F2全体の改良のようです。    F2の場合、シルバーボディーの場合、銀一色のパーツとなっていました。一方、ブラックボディの場合、当初は黒銀二色のパーツでしたが、製造番号78XXXXX近辺(1977年前後)にシルバーボディーと同じ銀一色のパーツに置き替えられています。

   F2チタンでは、報道特需向け(ノーネーム)のかなり初期の段階(おそらく第1ロットの途中)で黒銀二色の物から銀一色のものに切り替わっています。

⑸    フィルムガイドの切り欠き
   これは、F2チタン固有の個体差ではなく、F2全体の改良のようです。
   手元のF2を見ると、768XXXX(1976年製造)まで無くて、794XXXX(1979年製造)は有ります。F2チタンは1978年に製造されたので、ちょうどこの境目にあたりますが、この変更がF2チタンに由来するものかどうかはわかりません。
   手元のF2チタンを見ると、鋼鉄製裏蓋は2台有りますが(製造番号は2台共に100番代)2台共切り欠きは有りませんでした。チタン製裏蓋は4台有りますが(ノーネーム500番代〜4500番代が3台とネーム有1台)は全て切り欠きは有りました。この事が全ての個体に言えるかどうかはわかりません。





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