Nikon   F3 初期型

1    はじめに
   ニコンF3は、1980年3月に発売されました。
   F3には「初期型」と言われるものがあります。
   ここでは、初期型から変更された部品の変更前後を対比していきます。
   初期型は、初期型以外のものと比べると変更された箇所が10箇所以上あります。この変更は、一度に全て行われたわけではなく、少しずつ行われたようです。今から変更時期を確認するのは容易ではありませんが、12X万台後半から始まり、14X万台前半には終了しているようです。多くは13X万台に変更されているので、この製造番号の個体は初期型とそうでないものと部品が入り混じっています。確実な事は言えませんが、12X万台であれば、完全な初期型であると考えられます。この場合でも、修理等で部品交換されている事もありますので、絶対とは言えないようです。
   なお、F3の製造番号は、120万台から始まっています。
   F3の製造時期は、ロットスタンプから見るのが一般的ですが、最初期のものにはロットスタンプは印刷されていません。ロットスタンプがいつ頃から印刷されたのかは定かではありませんが、私が実機で確認したのは、120万台には有りませんでしたが、123万台には有りました。120万台は1980年3月製造、一方、123万台は1980年6月製造とされているので、ロットスタンプが印刷されていないのは、最初の2〜3か月のみと思われます。
   では、変更箇所を順次見ていきます。

2    シャッターダイヤルのバルブ「B」の文字の色
   シャッターダイヤルのバルブ「B」の文字がオレンジ色から白色に変更されています。一説には、手前8秒の「8」と「B」が同じ色だと見ずらいと言うのが理由のようです。



3    シャッターダイヤルのロック解除ボタン
   シャッターダイヤルのロック解除ボタンの高さが高くなりプラスティックのガードが付きました。この目的は、ロック解除ボタンから水の浸入を防止するためのOリングを組込むためのようです。
   シャッターダイヤルを外すためには、周りのゴム部品を外します。左が初期型、右が変更後です。

   上の画像で、ロックボタンの根本にOリングを組込むために、ボタン自体が高くなっている事がわかります。下の画像は、ロックボタンの部品を外したところです。右の変更後には黒いビニールのようなものが接着されています。これも防水対策ではないかと考えられます。

   上はシャッタースピードダイヤルです。右の変更後は、根本にOリングが入ったので膨らんでいます。
   下はロックボタンを横から見たところです。Oリングが入ったためボタンの高さが高くなっているのが分かります。



4    多重露光レバーの形
   多重露光レバーの形が太い形状から細長い形状に変更されています。変更の理由は、ストラップに当たって不用意に回ってしまう事を防止するためではないかと考えられます。


5    グリップの材質
   グリップの素材が変更されています。


6    ミラーアップレバーのギザギザ
   ミラーアップレバーにギザギザの加工がされました。これは、元ニコンの後藤さんから教えて頂きました。


7    AEロックのボタン
   AEロックのボタンが、平らなものから湾曲した形状に変更されています。


8    イルミネーターボタンの形状
   イルミネーターボタンの形状が大きくなっています。


9    ASA/ISO感度表示リングに段差
   ASA/ISO感度表示リングに段差が付きました。


10    巻き戻しクランクの付け根部分
   巻き戻しクランクの付け根部分が変更されています。
   これは、写真家の赤山シュウさんに教えていただきました。


11    巻き戻しクランクのツマミの部品
   巻き戻しクランクのツマミの部品のデザインが変更されています。これも、写真家の赤山シュウさんに教えていただきました。


12    前板の形状
   前板の形状、マウント側から見て11時と1時の方向に突起が追加されています。これはF3AFの接点を設けるための変更点のようですね。一番下の画像はF3AFです。


13    シャッターボタンの軸とバネ
   軸の形状が全く変更されました。
   また、バネも細く長く変更されています。
   シャッターボタンとその周りの黒い部品に変更はないようです。ただ、黒い部品はネジで固定した上、接着されるようになっています。
   なぜ、このような変更がされたか、色々考えましたが思いつきません。詳しい方いらっしゃたら、コメントで教えてください。
   画像は、上が初期型(#1201271)、下が初期型ではないもの(#1886813)です。

   シャッターボタンとその周りに来る部品の裏側です。変更はないようです。ただ、黒い部品はネジで固定した上、接着されるようになっています。

   シャッターボタンとその下の巻上げレバーの間のバネです。細く長くなりました。
   理由は、耐久性を増すためや、生産上の都合等が考えられますが、正確にはわかりません。ただ、バネを細くした事でバネの力が弱くなったため、当初の力を維持するために長くなったと考えられます。

   軸の拡大です。形状が完全に変更されています。

   シャッターボタンの下の軸の「段差」と「溝」の役割についての考察
   軸の段差と溝の役割は、シャッターボタンのケーブルネジ孔から入った水が更に奥に入る事を防止する事であると考えられます。上から伝ってきた水滴をそこで溜めるダムですね。水が入る仕組みは、①シャッターボタンのケーブルネジ孔に水が溜まり、②シャッターを切る動作でポンプのように内部に吸い込まれる、となります。この水を少しでも軸周りで食い止めるように段差と溝を作り溜めておく工夫と考えられます。後に溝の数が増えているのは、機能性能を落とさない範囲でダムを増やしたのではないかと考えられます。電気回路は外から一滴入っただけで動かなくなります。特に水が伝って落ちて行く底部には広大な基板が待ち受けてますから対策が取られたものと考えられます。

   上記役割は、レンズマウントに溝(レンズマウントの凹部)がある事も同じと考えられます。レンズマウントの溝は、両マウントの隙間に入った水分をこの溝に溜めて内部に侵入させない事にあると考えられます。こちらも臨時の「ダム」ですね。
   また、レンズマウントの溝の場合は、水止めの目的以外に、ホコリやゴミが入っても滑らかに動かす事も役割に含まれていると考えられます。溝が無いと小さなゴミでも挟んだら動きがギクシャクしてしまいますし傷だらけになってしまいます。これを避ける目的もあるのではないかと考えられます。

14    巻上げレバーの押さえ
   溝が十字から斜めに変更されています。これは、溝の切り方が、回転させなくても一方向でカット出来るという工程の簡略化ではないかと想像しています。また、初期型の十字の溝は、シャッターボタンの周りの押さえとなる黒い部品を付ける時、シャッターボタンの部品がバネで下から押されているため、シャッターボタンの部品についている出っ張り部分が、この溝とズレてしまい、ネジを回す時に工夫が必要でしたが、斜めの溝では、この点がやり易くなっています。
   事情通の方、いらっしゃいましたらコメントで教えてください。
   画像は、上が初期型(#1201271)、下が初期型ではないもの(#1886813)です。


15    FPC番号,ロットスタンプ
⑴    FPC番号
   FPC番号とは、カタログで見た事があるこの画像のこの部分に貼付されている一桁乃至四桁の数字です。

   このFPC番号付の画像は、F3発売当初から、1995.7.3版で頁数が大幅に減るまで使われて続けていました。なお、初期のカタログでは「6」、その後、1984年以降は「210」をメインに「6」も小さく掲載していました。

   また、英語版では「100」が使われています。

   これだけ長期間使われていた画像なので、FPC番号は全ての固体に振られていると思われがちですが、ごく初期の個体にしか振られていません。
   ちなみに、FPC番号のFPCとは、Flexible Printed Circuits の頭文字で、日本語ではフレキシブル回路基盤やフレキシブルプリント配線板と呼ばれているようです。

⑵    ロットスタンプ
   ニコンF3には、ボディダイキャスト横に永久不滅インキで印刷された四桁の番号(ロットスタンプ)が振られている事は有名です。このロットスタンプは、ごく初期には振られていませんでした。

⑶    FPC番号とロットスタンプ
   手元の個体での状況は次のとおりです。
製造番号 FPC番号 ロットスタンプ
1201271 有(840)
1202649 有(3288)
1202739
1229335 有(60AA)
1235343 有(70AB)










イ    FPC番号
   上記のとおり、FPC番号は、1202649〜1202649間で終了しています。
   また、1201271から1202649で、製造番号は1,378増加しているのに対して、FPC番号は840から3,288へ2,448増加していることから、FPC番号の連続性は不明です。
   FPC番号は、F3生産開始当初、個々の部品に不具合があった時の対応のために、個々の部品に貼付していたもののようです。そのため、個々の部品の生産が軌道に乗れば部品を個別に管理する必要がなくなるのでFPC番号は終了したと推測されます。このあたりは、写真家赤山シュウさんのユーチューブ動画で元ニコンの後藤さんが解説されています。
   なお、FPC番号を確認するためには底蓋を開ける必要があります。底蓋を開けるには三本の➕ネジと一本の➖ネジを外します。この➖ネジは舐め易い のでご注意ください。

ロ    ロットスタンプ
   上記のとおり、ロットスタンプは、1202739〜1229335間で開始しています。
   ロッドスタンプは、カメラ全体の量産が軌道に乗っため、カメラ全体の番号管理を始めたものと推測されます。

ハ    FPC番号とロットスタンプの分布
   上記のとおり、「FPC番号有•ロットスタンプ無」⇨「FPC番号無•ロットスタンプ無」⇨「FPC番号無•ロットスタンプ有」と推移していきます。
   冒頭に書きましたがように、初期型は120万台後半から徐々に更新して130万台後半で完了しています。ですので、ロットスタンプが無いのは初期型のごく初期だけ、更にFPC番号が有るのは超初期型だけという事になります。

ニ    FPC番号とロットスタンプの関係
   上記のとおり、FPC番号廃止⇨ロットスタンプの開始となりますが、FPC番号もロットスタンプも振られていない個体があります。また、それぞれの目的は既に書いたとおりです。以上から、FPC番号を廃止して代わりにロットスタンプを開始したという関係ではなく、FPC番号が不要となり、その後、ロットスタンプで管理できる体制が整ったとみれます。





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