Nikon   FM   FM2   New FM2   FM3A

 「機械式シャッター」を搭載したニコマートFTシリーズの後継機であるニコンFMシリーズを整理比較します。
 「機械式シャッター」と言っても、今のミラーレスの時代で言う「機械式シャッター」の意味ではありません。この時代の「機械式シャッター」の意味は、電池が無くてもシャッターを切れる機構の事でを指します。ちなみに、「機械式シャッター」の対義語は「電子式シャッター」で電池が無いとシャッターを切れない機構となります。「機械式シャッター」搭載機の利点は、電池切れで撮影出来なくなる心配が無い事ですが、欠点は絞り優先等オート撮影が出来ない事です。「機械式シャッター」搭載機も電池を使いますがこれは内臓露出計のためであり、内臓露出計を使わなければ電池を入れる必要はありません。
 前置きが長くなりましたが、FMシリーズ各機の主要な諸元を並べました。
 上述のとおり、FMシリーズは「機械式シャッター」搭載機なのでオート撮影機能は搭載しておらずマニュアル撮影のみとなります。ただ、FM3Aだけは、「機械式シャッター」と同時にオート撮影用に「電子式シャッター」も搭載しているため、絞り優先オートも使用可能です。

機種名 FM FM2 New FM2 FM3A
発売年月 1977 (S52) .5
1982 (S57) .3
1984 (S59) .3
2001 (H13) .7
測光 中央部重点
中央部重点
中央部重点
中央部重点
フィルム感度 12〜3,200
12〜6,400
12〜6,400
DX、12〜6,400
露出制御 マニュアル
マニュアル
マニュアル
絞り優先
マニュアル
スクリーン 固定式(K型)
交換式
交換式
交換式
マニュアル
露出表示 LED3個
(5段階表示)
LED3個
(5段階表示)
LED3個
(5段階表示)
追針式
マニュアル
シャッター機構 機械制御式
上下走行式
機械制御式
上下走行式
ハニカムパターン
機械制御式
上下走行式
当初ハニカムパターン
電子制御
(絞り優先)
機械制御式
(マニュアル)
上下走行式メタル
シャッター B、1〜1/1,000秒
(12段階)
B、1〜1/4,000秒、
X(1/200秒)
(15段階)
B、1〜1/4,000秒(14段階) B、1〜1/4,000秒(14段階)
機械シャッター 全速 全速 全速 全速
シンクロ 1/125秒以下 1/200秒以下 1/250秒以下 1/250秒以下
露出計連動レバー 可倒式 固定式 固定式 固定式
寸法 142 × 89.5 × 60.5 142.5 × 90 × 60 142.5 × 90 × 60 142.5 × 90 × 58
重量 590g 540g 540g 570g
標準価格 57,000円
(ブラックボディは4,000円高)
63,000円
(ブラックボディは4,000円高)
65,000円
(ブラックボディは4,000円高)
1996年頃以降 : 72,000円
(ブラックボディは4,000円高)
96,000円
(ブラックボディは3,000円高)

 FMは一般に前期、中期、後期と分類されており、違いはシャッターロック機構と各種ダイヤルのローレット加工の有無です。表にすると次のとおりになります。このような変遷は、同時代に製造されていた「電子シャッター」搭載機であるFEには見られません。
区分 前期 中期 後期
シャッターロック機構 シャッターボタン周り
シャッターボタン周り
巻上げレバー
製造番号表記 Nikon
FM XXXXXXX
FM XXXXXXX
FM XXXXXXX
ローレット加工
(シャッターボタン周り)
あり
あり
なし
ローレット加工
(巻き戻しノブ)
あり
なし
なし

 上記三機種(FMは、前期、中期、後期の三種)の画像を並べてみます。画像は常に、次のとおり並んでいます。
  左上段 = FM前期 右上段 = FM2
  左中段 = FM中期 右中段 = NewFM2
  左下段 = FM後期 右下段 = FM3A

 まずは全体の正面です。FM2から巻上げ側に機種名が入るようになりました。


 全体を上からです。操作系は同じなので、持ち替えても操作に迷うことはありません。


 銘板部分です。一番目立つのはペンタ部のロゴがNewFM2までは俗に言う「縦Nikon」でしたが、FM3Aは斜体になりました。ニコンでは、1988年発売のF4以降は全て斜体のロゴになっていますから2001年発売のFM3Aは斜体となるのはやむを得ないのでしょうか。この後、「縦ニコン」の復活は2013年発売のDfまで待たなくてはなりません。また、FM3Aはペンタ部がとんがって、ニコンFのアイレベルファインダーに似ています。


 正面から見て左側のエプロン部近辺です。絞り込みレバーにFM2以降は段差が付きました。
 また、セルフタイマーレバーの形状もFM2以降変更されています。


 正面から見て右側のエプロン部近辺です。FM3Aにはレンズ取り外しボタン上部にTTL調光補正ボタンが設けられています。


 絞り連動レバーです。FMは可倒式、FM2以降は固定式となっています。


 固定式の場合、非Ai方式のレンズを取り付けられませんが、可倒式の場合、絞り連動レバーを倒すことで非Ai方式のレンズを取り付けることが出来ます。画像左上段は固定式、右上段は可倒式です。可倒式は、左下段のようにレンス取付指標近くのピンを押すとレバーを上方に倒すことができます。この状態にすると右下段のように非Ai方式のレンズを絞り連動レバーに干渉することなく取り付けることができます。


 巻上げ側を上から見たところです。各機種の違いが一番分かりやすいところです。FMは多重露光レバーがシャッタースピードダイヤル付近にあったのが、FM2以降は巻上げレバーの軸に移動しています。
 また、巻上げレバーの軸の貼り革ですが、NewFM2までは貼られていましたが、FM3Aで無くなってしまいました。


 シャッタースピードダイヤルです。FM2以降の各機種の違いはここを見るとすぐに分かります。


 シャッターボタンリングです。FMはシャッターボタンの形状がFM2以降と異なります。FMにはソフトシャッターレリーズAR-1を取り付けられますが、FM2以降には付けられません。


巻上げレバーを予備角まで起こした状態です。各機種、この状態で露出計がオンになります。FM後期以降はシャッターボタンのロックも外れるようになりました。


参考までに、FM初期と中期のシャッターボタンのロックと露出計のスイッチを整理します。
まず、シャッターボタンのロックですが、画像左上段のようにシャッターボタンリングが赤色の位置にある時はロックされていて、画像左下段のように白色の位置にシャッターボタンリングを回転させるとロックは解除されます。
 シャッターボタンリングを回転させる時のトルクですが、FやF2のように回転させるのにシャッターボタンリングを引き上げる必要はないのですが、結構個体差があります。硬いと二本の指でしっかりつまむ必要がありますが、硬くないと今のZシリーズと同じ感覚で指一本で回転出来ます。
 次に露出計のスイッチですが、画像右上段のように巻上げレバーが閉じている状態だとスイッチオフ、画像右下段のように予備角まで起こすとスイッチオンとなります。FMでは画像右下段のように予備角まで起こすと赤色の指標が見えるようになりますが、この指標はFM2以降は省略されてしまいました。
 FM後期からシャッターボタンリングを回転させてのシャッターロック機構は廃止されて、巻上げレバーを予備角まで起こす事でシャッターロック解除と露出計スイッチオンが一度に出来るように変更されています。


 巻上げ側正面上部です。FM2から機種名が入るようになりました。これはこの頃の他の機種も同じです。


 シャッターボタンリングとシャッタースピードダイヤルのローレットの有無とデザインの違いです。シャッターボタンリングのローレットはFM後期から無くなっています。上述のとおりFM後期からはシャッターボタンリングを回転させる必要がなくなったためと考えられます。


 巻戻しノブ側を上から見たところです。FM3AだけISO感度設定機構がこちら側に移動して露出補正機構が追加されました。
 またFM3Aには巻戻しノブを引き上げる際のロック機構がありません。


 参考までに、巻戻し側上部をFM3AとFE2で比べてみます。各種設定機能の位置は同じですが、ISO感度の設定位置は機構が違うため印象が違います。


 巻戻しノブです。FM前期だけはローレット加工がしてあります。また、FM2以降は高さが低くなりました。


 巻戻しノブの高さがFMはFM2以降より高いので、巻戻しクランクのツマミがFMは長くなっています。


 FM3Aだけは巻戻しノブの付け根をネジで固定しています。


 背面です。FM3Aだけはフイルムメモホルダーに代わってフィルム確認窓が設けられています。


 背面製造番号付近です。FMは製造番号の前に機種名が刻印されています。FM前期は上部に「Nikon」の刻印が見られます。NewFM2は製造番号の前に「N』の刻印があります。FM3Aは製造番号の左側にAEロックボタンが設けられています。


 シャッター幕です。全機縦走りシャッターですが、FMだけはハニカムパターンとなっています。


 ホットシューです。
 FMはシンクロ接点ひとつでした。
 FM2以降はレディ信号接点が追加されました。
 FM3Aは、FM2の二つの接点に加えて、TTL調光接点(ファインダー側右)とモニター信号接点(レンズ側右)の二つの接点が追加され、接点は合計四つとなりました。また、シュー前方にセーフティロック機構(ロック穴)も追加されています。


 ファインダー内表示です。
 全機種に共通するのは、上部にレンズの絞り値を見る事が出来ます。
 FMからNewFM2まではほぼ同じです。左側にシャッタースピード、右側が露出計で上から「+」「◯」「−」の表示になっています。FMは+等の記号の右側が点灯しますが、FM2からは記号自体が点灯するように変わりました。
 FM3Aは、追針式の露出計になってFEシリーズと同じ表示になりました。


 蛇足です。メーカーは、Zfにつき「FM2の信念を受け継ぎ、インスピレーションを得て洗練された外観デザイン」と、また、Zfcにつき「FM2の象徴的なデザインにインスパイアされた」と言っています。しかし、よく銘板部は「FM2ではなくFE2だ」と言われています。こうして並べてみると、それがよく分かりますね。


 最後に、FM3Aの銘板の斜体が好きになれないという意見をよく聞きます。私も同意見です。そこで私の解決法はこちらの画像のとおりです。ついでに巻戻しノブもFM初期型のローレット加工されたものに換装しました。


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