ニコンのガチャガチャ

目次
1    はじめに
2    歴史1・ガチャガチャ前夜
3    歴史2・ガチャガチャの時代
   (1)    目的
   (2)    機構
   (3)    ガチャガチャが必要な機種
      イ    フォトミック系
      (イ)    ニコンF
      (ロ)    ニコンF2
      ロ    ニコマート系
      ハ    ガチャガチャ年表
   (4)    ガチャガチャの比較
4    歴史3・ガチャガチャ後
   (1)    Ai化の概要
   (2)    AiレンズとAi前のレンズ
   (3)    Ai化後のカメラ1(Ai化直後)
   (4)    Ai化後のカメラ2(F3の時代以降)
   (5)    Ai化後のカメラ3(デジタルの時代)
5    提言




1    はじめに    目次へ戻る
   「ニコンのガチャガチャ」という言葉は良く聞きましたが、私はリアルタイムで体験していないので少し調べてみました。
   ニコンの古いレンズには絞り環にツメ(巷では「カニ爪」と呼ばれたりしています。以下、「カニ爪」で統一します。)が付いているので、カニ爪を使う機種は全てガチャガチャが必要なのかと思っていましたが、そうではないようです。なかなか奥が深いです。
   ガチャガチャの詳細は以下に記載しますが、ガチャガチャをする機構は、フラッグシップのF、F2のフォトミック系とニコマート系とに、大きく二つに分かれます。そのため、ここではその二つの比較の視点も入れて見てみます。

2    歴史1・ガチャガチャ前夜    目次へ戻る
   フォトミック系はTNまで、ニコマートはFTがガチャガチャの前の世代に当たります。これらも自動絞りのレンズで開放測光をするので、ボディー側にレンズの絞り開放F値を「伝達」する必要があります。これらはどうやって「伝達」していたかというと手動です。
   具体的には、開放F値をISO感度に合わせる事で調整します。手動で合わせるという意味では今のデジカメで非CPUレンズを使うの時と同じですね。
   フォトミックTファインダー付のFとニコマートFTでガチャガチャの動作をしてみました。カニ爪が露出計連動レバーに噛み合いますが、開放F値はボディー側に伝達されません。

   下段の画像の下段が開放F値とISO感度を合わせるダイヤルです。



3    歴史2・ガチャガチャの時代    目次へ戻る

⑴    目的    目次へ戻る
   ガチャガチャの目的は、ボディー側にレンズの絞り開放F値を「伝達」するためのものです。
   なぜ、「伝達」が必要かというと、レンズが自動絞り(通常、絞り羽は全開になっていて、撮影の瞬間だけ設定した絞り値まで絞り羽が閉まる機構)なので、開放測光の場合、受光素子には開放の光が当たっている事になります。しかし、同じ光が当たっていても、レンズによって開放F値が異なるので、その分補正する必要があります。そのために「伝達」が必要となります。

⑵    機構    目次へ戻る
   説明書によると、ガチャガチャ動作で次の作業を行なっています。
区分 内容
ガチャ1 爪と連動ピンの連結
ガチャ2 開放F値の設定


⑶    ガチャガチャが必要な機種    目次へ戻る

イ    フォトミック系    目次へ戻る

(イ)    ニコンF    目次へ戻る
   ニコンFのフォトミックファインダーでガチャガチャが必要なのは1968(昭和43)年9月に発売されたFTNだけです。

(ロ)    ニコンF2    目次へ戻る
   F2用のフォトミックファインダーでガチャガチャが必要なのは次の三種類です。
発売年月 機種名
1971(昭和46)年9月 フォトミック
1973(昭和48)年3月 フォトミックS
1976(昭和51)年10月 フォトミックSB


ロ    ニコマート系    目次へ戻る
   ニコマート系でガチャガチャが必要な機種は次のとおりです。
発売年月 機種名
1967(昭和42)年10月 FTN
1975(昭和50)年3月 FT2
1972(昭和47)年12月 EL
1976(昭和51)年2月発売 ELW


ハ    ガチャガチャ年表    目次へ戻る
   ガチャガチャが必要な機種を発売順に並べてみました。次のとおり1967(昭和42)年に初めて発売され、1977(昭和52)年のAi化まで約10年間販売されました。
発売年月 機種名
1967(昭和42)年10月 ニコマートFTN
1968(昭和43)年09月 FフォトミックFTN
1971(昭和46)年09月 F2フォトミック
1972(昭和47)年12月 ニコマートEL
1973(昭和48)年03月 F2フォトミックS
1975(昭和50)年03月 ニコマートFT2
1976(昭和51)年02月 ニコマートELW
1976(昭和51)年10月 F2フォトミックSB


⑷    ガチャガチャの比較    目次へ戻る
   フォトミック系とニコマート系では、やっている事は同じなのですが機構が結構異なります。
   なお、レンズ装着時、ニコマート系は絞り環をF5.6にする必要がありますが、フォトミック系はその必要はありません。フォトミック系の実機を操作したところ、レンズのF値が5.6以上の場合はレンズ装着時の回転でガチャ1の作業を兼ねるのでガチャ2だけすればよく、F5.6未満の場合はガチャ1の動作も必要でした。
   では、フォトミック系とニコマート系を見てみます。画像は、左側はニコンFにフォトミックFTNファインダーを装着した状態、右側はニコマートFTNです。

   次は、本題のガチャガチャです。
   上段の画像は、レンズをボディー側の指標に合わせて差し込んだ状態です。
   中段の画像は、レンズを回して固定して絞り環を目一杯向かって左側に回転させた状態。上の⑵でいう「ガチャ1」をした状態です。
   下段の画像は、中段の画像の状態の後に絞り環を目一杯向かって右側に回転させた状態。上の⑵でいう「ガチャ2」をした状態です。

   左側のフォトミックFTNファインダーは、「Nikon」の刻印の下にある「開放Fナンバー目盛」が、上段は最小数値を指していますが、中段ではガチャ1をしたので露出計連動レバーがカニ爪と噛み合ってその時のF値(この時はF5.6)を指しています。そして、下段ではガチャ2をしたので「開放Fナンバー目盛」がこのレンズの解放F値であるF2を指して、無事伝達終了となっています。
   対して、右側のニコマートFTNは「開放Fナンバー目盛」がマウント側面にあるので正面からでは違いがわかりません。しかし、中段のガチャ1をするとカチッと噛み合った機械的振動がするので体感的によくわかります。そのため、上の画像と同じタイミングですが、右側のニコマートFTNだけは「開放Fナンバー目盛」があるマウント側面を写したものを見てみます。

   目盛の幅が細いのでわかりづらいですが、下段の画像だけ拡大するとこのようにこのレンズの解放F値であるF2を指して、無事伝達終了となっています。



4    歴史3・ガチャガチャ後    目次へ戻る

⑴    Ai化の概要    目次へ戻る
   ガチャガチャは、1977(昭和52)年に「伝達」方法がそれまでのカニ爪から絞り環のマウント側にある切り欠きを使うようになった、所謂Ai化によって不要な作業となりました。
   Ai化の「Ai」とは、Automatic Maximum Aperture Indexing の事だそうです。それぞれの単語の意味は次のとおりですが、繋げると「開放F値自動補正方式」となるそうです。
単語 意味
Automatic 自動の(A)、自動機械(N)
Maximum 最大の(A)、最大(N)
Aperture 絞り値(A)
Indexing = index 索引を付ける(V)


   因みに、Ai化された1977(昭和52)年に発売された機種は次のとおりです。
発売年月 機種名
3月 ニコンF2フォトミックA
ニコマートFT3
5月 ニコンFM
ニコンEL2
7月 ニコンF2フォトミックAS
1978(昭和53)年4月 ニコンFE


⑵    AiレンズとAi前のレンズ    目次へ戻る
   AiレンズとAi前のレンズの対比をしてみました。左側がAi前のレンズで、右側がAiに改造したレンズです。

   上段の画像のとおり、左側のAi前はカニ爪に穴がなく、右側のAiにはカニ爪に穴が空いています。これは、中段の画像でわかるように、カニ爪の裏側にも追加で刻印されている絞り値に光を当てるためだと思われます。
   中段の画像は、マウント面を俯瞰したものですが、左側のAi前は絞り環がマウントより高くなっていて(俗にいう袴ですね)絞り環のマウント側には凹凸が無く平らになっています。対してAiは絞り環のマウント側には凹凸が付き、カニ爪の内側にも絞り値の刻印がされました。
   下段の画像は、絞り環のマウント側の凹凸を拡大したものです。右側のAiはF16近辺が一段高くなっています。この段差部分がボディーの露出計連動レバーと噛み合って、レンズの開放F値を伝達します。

⑶    Ai化後のカメラ1(Ai化直後)    目次へ戻る
   Ai化直後のボディーをフォトミック系代表のF2フォトミックAとニコマート系代表のFMとで、開放F値の伝達方法を比較してみました。これもフォトミック系とニコマート系とで機構が異なります。
   左側がニコンF2にフォトミックAファインダーを装着した状態、右側がニコンFMです。
   上段は全体像で、中段は露出計連動レバーの部分を拡大したものです。この露出計連動レバーは、Ai前のレンズを装着しようとすると干渉してしまいます。そのため、下段のように排除する事が出来ます。フォトミックAは、上方向に指で押し込めば畳めます。また出す時は再度上方向に押し込むと出てきます。ちょうどSDカードをカメラにセットする時と同じ感じですね。FMは、露出計連動レバーの右下にあるピンを押し込みながら指で上に跳ね上げればその状態で止まります。戻す時は指で下に押し下げるだけです。

   Ai方式の「伝達」の画像です。上段はボディー側レンズ取付指標に沿ってレンズをはめ込んだ状態です。中段は上段の状態からカチッと音がするまで回して取り付けが完了した状態です。下段はボディー側の露出計連動レバーがレンズに切り欠きに嵌っている部分を拡大したものです。


⑷    Ai 化後のカメラ2(F3の時代以降)    目次へ戻る
   F3になるとフォトミックは廃止されたので、上で言ってきたニコマート系に統一されます。しかし、露出計連動レバーは、①可倒式のもの、②固定式のもの、③存在しないもの、に別れていきます。大まかに分類すると、①はフラッグシップ、②は中級機、③は入門機という感じでした。入門機を購入する人は古いレンズを使わないという考えのコストカットですね。
   ①代表のF3と②代表のFAを比較してみます。露出計連動レバーが金属製でそれを跳ね上げる時にロック解除するピンの有無ですぐにわかりますね。②のボディーはAi前のレンズを取り付けようとしても、露出計連動レバーが干渉するので取り付けられません。無理にすれば付かない事もないのですが、破損の恐れ大なので絶対おすすめしません。


⑸    Ai 化後のカメラ3(デジタルの時代)    目次へ戻る
   デジタルの時代は、①可倒式のものは消滅して、②固定式のものか③存在しないものに二分されました。唯一Dfだけが① 可倒式のものとなっています。
   ①のDfと②代表のD750を比較してみます。デジタルの時代で非CPUのAiレンズを使用する場合、露出計連動レバーは付いているのですが開放F値はボディーに「伝達」されないので、セットアップメニューの「レンズ情報手動設定」画面から入力してする必要があります。
   ガチャガチャ以前に戻ってしまった感がありますね。

   次に、①可倒式の露出計連動レバーを倒してAi化前のレンズを付けてみます。左側のはDf、右側はF3です。
   上段の画像は、露出計連動レバー何倒れていない状態です。
   中段の画像は、露出計連動レバーを倒した状態でです。
   下段の画像は、露出計連動レバーを倒した状態でAi前のレンズを付けたところです。

   上と同じ事をF4とF5でしてみました。まぁ当然上と同じですよね。



5    提言    目次へ戻る
   ニコンは、ミラーレスより前は「不変のFマウント」と言って、ニコンF以来のFマウントを続けてきました。しかしながら、ミラーレスでマウント変更しました。マウントアダプターを用意してはいますが、レンズとボディーとの間は電気的な「伝達」のみで露出計連動レバーのような機械的な「伝達」は残されていません。
   そこで、私が妄想するミラーレスカメラを提言として記載させて頂きます。いつの日かこんなカメラと巡り会えるといいですね。

⑴    デザイン
   これは、F3がいいですね〜。私と同じ意見の人はたくさんいると思います。

⑵    巻上げレバー
   これはあるといいですね。
   機能は、かつてのエプソンRD-1のようにシャッターチャージ用ですかね。
   F3の巻上げレバーのトルクが再現出来るといいですね。

⑶    レンズ
   Zレンズの「SE」に次の機能が有ると幸せですね〜
      イ    Ai方式の絞り環
      ロ    カニ爪

⑷    マウントアダプターFTZ
   イ Ai方式の機構
      かつての接写リンクPK-11〜13 のような機構を取り入れて欲しいですね。レンズ側は跳ね上げ式がいいですね。
   ロ カニ爪に対応する機構
      これもかつての接写リンクPK-1〜3のような機構を取り入れて欲しいですね。



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